徒然なるままに

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Abnormal Zeeman Effect PART2

こんにちは。 お久しぶりです、メンボーです。

もう8月になってしまいますね。 本当は今頃東京オリンピックが開かれていたのかと思うと少し悲しい気持ちになります。 コロナの猛威が早く収まることを願っています。

さて今回はですね、題目通り以前書いた異常ゼーマン効果の記事Abnormal Zeeman Effect PART1 - 徒然なるままにの 続きです。

前回の記事より、原子核の周りを軌道角運動量 \boldsymbol{l}で周回している電子(スピン \boldsymbol{s}を持つ)に磁場Bをz軸方向に印加したとき、系のハミルトニアンは以下で与えられるのでした。

\begin{eqnarray} \displaystyle H &= H_0 + H_{LS} + H_B \\ H_{LS} &= \kappa (\boldsymbol{l} \cdot \boldsymbol{s}) \\ H_B &= \mu_B ( \boldsymbol{l} + 2 \boldsymbol{s}) \cdot \boldsymbol{B} = \mu_B B (l_z + 2 s_z) \\ \end{eqnarray}

前回は H_B >> H_{LS}としたので、このLS結合の部分を気にすることはありませんでした。
しかし今回は、先の軌道角運動量・スピンと磁場との相互作用がLS結合よりも十分に大きいとする制約を付けずに議論を進めていきたいと思います。
狙いは行列力学としての量子力学を垣間見てみること
です。

今回のPARTを含めて恐らく2,3回ほど記事を書いていくと思いますが、大まかな流れは以下のようになります。
STEP1. LS結合している系の磁場を印加していない、定常状態での固有関数1を求める。
STEP2. 磁場を印加したとき、固有関数がどのように変化するのかを考える。
STEP3. 磁場の印加時の固有関数2を定め、その固有関数2に対してハミルトニアンを作用させる。
その後基底を固有関数2にもつハミルトニアンを求め、そのハミルトニアン固有値を求める。

早速STEP1をやっていきましょう。 一つの電子がp軌道(n=2, l = 0,1 , m = -1, 0, 1)に入っている場合を考えます。一番簡単な例ですので。
このp軌道の固有状態は(動径成分の波動関数)×(角度成分の波動関数)という形になるのでした。

\begin{eqnarray} \displaystyle R_{n,l} Y_{l,m} = R_{2,1}Y_{1, -1} ,\ R_{2,1}Y_{1,0} ,\ R_{2,1}Y_{1, 1} \end{eqnarray}

これらをそれぞれ簡単のためu_{-1},  u_0,  u_1としておく。
それにスピンの上向き・下向きをそれぞれα,βが表すとしておく。
すると以下の六つの固有関数を基底として考えられる。

\begin{eqnarray} \displaystyle u_{-1}α ,\ u_{0}α ,\ u_{1}α ,\ u_{-1}β ,\ u_{0}β ,\ u_{1}β \tag{1} \end{eqnarray}

基底を用意できたので、LS項の \boldsymbol{l} \cdot \boldsymbol{s}を実際に固有関数に作用させて行列表示にしましょう。 その前に、 \boldsymbol{l} \cdot \boldsymbol{s} = l_x s_x + l_y s_y + l_z s_zは昇降演算子で表しておきます。  l_z s_zは先ほど記した六つの基底を固有関数に持つため、そのままに放置。いじる部分はx,y成分です。

\begin{eqnarray} \displaystyle l_x = \frac{1}{2}(l_+ + l_-) ,\ l_y = \frac{1}{2i}(l_+ - l_-) \\ s_x = \frac{1}{2}(s_+ + s_-) ,\ s_y = \frac{1}{2i}(s_+ - s_-) \\ \end{eqnarray}


を用いて \boldsymbol{l} \cdot \boldsymbol{s}を書き換えると以下のようになります。

\begin{eqnarray} \displaystyle \boldsymbol{l} \cdot \boldsymbol{s} = \frac{1}{2}(l_+ s_- + l_- s_+) + l_z s_z \tag{1} \end{eqnarray}


この関数を先程の固有関数たちに作用させます。この時、以下の性質を思い出しながら計算します。

\begin{eqnarray} \displaystyle l_z Y^m _l &= m \hbar Y^m _l \\ l_+ Y^m _l &= \hbar \sqrt{ (l - m)(l + m + 1) } Y^{m+1} _l \\ l_- Y^m _l &= \hbar \sqrt{ (l + m ) (l - m + 1) } Y^{mー1} _l \end{eqnarray}


面倒だけど。。。やるのです。。。

\begin{eqnarray} \displaystyle (\boldsymbol{l} \cdot \boldsymbol{s}) u_{-1}α &= \frac{1}{2} ( l_+ u_{-1} ) (s_- α) + \frac{1}{2} ( l_- u_- ) ( s_+ α ) + ( l_z u_{-1} ) ( s_z α ) \\ &= \frac{1}{2} \Bigl( \hbar \sqrt{ ( 1- (-1) ) ( 1 - 1 + 1) } u_0 \Bigr) \Bigl( \hbar \sqrt{ ( \frac{1}{2} + \frac{1}{2} ) ( \frac{1}{2} - \frac{1}{2} + \frac{1}{2} ) } \Bigr) + 0 + \Bigl( \hbar (-1) u_{-1} \Bigr) \Bigl (\hbar (+ \frac{1}{2}) \Bigr) α \\ &= \frac{1}{\sqrt{2}} {\hbar}^2 u_0 β - \frac{1}{2} {\hbar}^2 u_{-1} α \end{eqnarray}


以上のようにしてやっていきます。

\begin{eqnarray} \displaystyle (\boldsymbol{l} \cdot \boldsymbol{s}) u_{-1}α &= \frac{1}{\sqrt{2}} {\hbar}^2 u_0 β - \frac{1}{2} {\hbar}^2 u_{-1} α \\ (\boldsymbol{l} \cdot \boldsymbol{s}) u_{0}α &= \frac{1}{\sqrt{2}} {\hbar}^2 u_1 β \\ (\boldsymbol{l} \cdot \boldsymbol{s}) u_{1}α &= \frac{1}{2} {\hbar}^2 u_1 α \\ (\boldsymbol{l} \cdot \boldsymbol{s}) u_{-1}β &= \frac{1}{2} {\hbar}^2 u_{-1} β \\ (\boldsymbol{l} \cdot \boldsymbol{s}) u_{0}β &= \frac{1}{\sqrt{2}} {\hbar}^2 u_{-1} α \\ (\boldsymbol{l} \cdot \boldsymbol{s}) u_{1}β &= \frac{1}{\sqrt{2}} {\hbar}^2 u_0 α - \frac{1}{2} {\hbar}^2 u_{1} β \\ \end{eqnarray}


ふぅ~~。。
以上の計算を基に \boldsymbol{l} \cdot \boldsymbol{s}の行列表示を書きます。
六つの基底で構成される系なので6×6行列になります。式(1)で並べた順番どおり一行目を u_{ー1} α, 二行目を u_0 α……としましょうか。列に関しても同様とします。
すると、以下のような行列になります。

\begin{array}{cccccc} -\frac{1}{2} {\hbar}^2 & 0 & 0 & 0 & \frac{1}{\sqrt{2}} {\hbar}^2& 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & \frac{1}{\sqrt{2}} {\hbar}^2 \\ 0 & 0 & \frac{1}{2} {\hbar}^2 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & \frac{1}{2} {\hbar}^2 & 0 & 0 \\ \frac{1}{\sqrt{2}} {\hbar}^2 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & \frac{1}{\sqrt{2}} {\hbar}^2 & 0 & 0 & 0 & - \frac{1}{2} {\hbar}^2 \\ \end{array}

 \boldsymbol{l} \cdot \boldsymbol{s}の行列表示を求められたので、めでたしめでたし。。。と言いたいところですが、この行列表示はいわば”汚い基底”の取り方をしているのであまりよくありません。 そもそも今考えている系は量子化軸としてz軸をとっており、LS結合で考えられる状態は l_z + s_z固有値である \hbar(m_l + m_s)の値は違えど、それが保存される系で構成されるものであると予想されます。だから、"上手い基底"の取り方をすれば、行列表示したときにブロックが現れると予想もできます。
「"上手い基底"の取り方」と大層に言っているわけですが、今回はただただ固有値 \hbar(m_l + m_s)の値の大きさ順に固有関数を並べて基底にするだけです。
 \hbar(m_l + m_s)の大きさで分類して下に記しておきます。

\begin{eqnarray} \displaystyle m_l + m_s = \frac{3}{2} ⇒ u_1 α \\ m_l + m_s = \frac{1}{2} ⇒ u_0 α, u_1 β \\ m_l + m_s = -\frac{1}{2} ⇒ u_{ー1} α, u_0 β \\ m_l + m_s = -\frac{3}{2} ⇒ u_{ー1} β \end{eqnarray}

以上のことから、第一行を u_1 α ,第二行を u_0 α, 第三行を u_1 β ……とします。列に関しても同じです。こうして再度行列表示してあげると以下のようになります。

\begin{array}{cccccc} \frac{1}{2} {\hbar}^2 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & \frac{1}{\sqrt{2}} {\hbar}^2 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & \frac{1}{\sqrt{2}} {\hbar}^2 & -\frac{1}{2} {\hbar}^2 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & -\frac{1}{2} {\hbar}^2 & \frac{1}{\sqrt{2}} {\hbar}^2 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & \frac{1}{\sqrt{2}} {\hbar}^2 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & \frac{1}{2} {\hbar}^2 \\ \end{array}

いいかんじすね。これでブロックの部分の2×2行列の固有関数を求めてあげればいいわけです。ここで注意すべきは、出来上がる固有関数の大きさが1になっていなければいけないということです。 ただの計算をここに起こすのが面倒だったので、pdf埋め込みしておきます。(雑記of雑記な為参考にならない可能性大)ここでは、m_l + m_s = \frac{1}{2}の行列しか計算していませんが、 m_l + m_s = - \frac{1}{2}の行列でも数値としては同じものがでるので安心してください。

m_l + m_s = \frac{1}{2}の行列に関する固有値・固有関数は以下のようになります。

\begin{eqnarray} \displaystyle  - {\hbar}^2 → - \sqrt{\frac{1}{3}} u_0 α + \sqrt{\frac{2}{3}} u_1 β \hspace{10pt} ,\ \hspace{10pt} \frac{1}{2} {\hbar}^2 → \sqrt{\frac{2}{3}} u_0 α + \sqrt{\frac{1}{3}} u_1 β  \end{eqnarray}

一方、m_l + m_s = -\frac{1}{2}の行列に関する固有値・固有関数は以下のようになります。

\begin{eqnarray} \displaystyle  - {\hbar}^2 → \sqrt{\frac{1}{3}} u_0 β - \sqrt{\frac{2}{3}} u_{-1} α \hspace{10pt} ,\ \hspace{10pt} \frac{1}{2} {\hbar}^2 → \sqrt{\frac{2}{3}} u_0 β + \sqrt{\frac{1}{3}} u_1 α  \end{eqnarray}

固有値 -{\hbar}^2の固有関数を f固有値 \frac{1}{2} {\hbar}^2の固有関数を gとし更に m_l + m_sの値をその関数の下付き添え字にしてラベリングを行えばここまでで求められた固有関数は以下のようになる。

\begin{align*} &f_{-\frac{1}{2}} = \sqrt{\frac{1}{3}} u_0 β - \sqrt{\frac{2}{3}} u_{-1} α \hspace{18pt} f_{\frac{1}{2}} = - \sqrt{\frac{1}{3}} u_0 α + \sqrt{\frac{2}{3}} u_1 β \\ &g_{-\frac{3}{2}} = u_{-1} β \hspace{85pt} g_{-\frac{1}{2}} = \sqrt{\frac{2}{3}} u_0 β + \sqrt{\frac{1}{3}} u_{-1} α \\ &g_{\frac{1}{2}} = \sqrt{\frac{2}{3}} u_0 α + \sqrt{\frac{1}{3}} u_1 β \hspace{27pt} g_{\frac{3}{2}} = u_1 α \hspace{7pt}\\ \end{align*}

漸くSTEP1がおわりました。STEP1はなんだったかというと「LS結合している系の磁場を印加していない、定常状態での固有関数1を求める。」でしたので。
中心力場内のp軌道に存在する1つの電子のスピンと軌道角運動量によるLS結合により、もともと l = -1, 0, 1 s = -\frac{1}{2}, +\frac{1}{2} 3×2=6状態で縮退していた準位が上の様に2重と4重に分かれることもわかりましたね。

次回はステップ2から始めます。 お疲れさまでした。 また。


参考文献
小出昭一郎 (1969)『量子力学(I) 』, 裳華房